多くのメディアに報道していただいたとおり、本日、高槻市監査委員に対し、住民監査請求をしました。
請求の概要としては、地震で倒壊した高槻市立寿栄小学校のブロック塀を含む学校建築物の点検や、ブロック塀の建築・撤去等に要した公金につき、点検や建築を行った事業者、並びに、これらを決裁し、あるいは放置等してきた市及び市教委の責任者に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求の勧告を求める、というものです。
なぜ今日行ったかというと、請求できる期限ギリギリの可能性が高いからです。住民監査請求は、原則、1年以内の行為しか対象になりません。このブロック塀の件については、建築も点検も1年以上前に終わっているので、この期間の制限に引っかかるわけですが、住民が相当の注意を払っても分からなかった場合には、「正当な理由」があるとして、1年以上前のものでもよいことになっています。
点検で手抜きがされていたとか、ブロック塀が違法建築だったということは、普通では分かりませんので、「正当な理由」が認められると思うのですが、そうであっても、その違法不当な行為が分かってから2か月以内くらいに住民監査請求をしなければならないという最高裁判例があるのです。この期限を過ぎると「期間徒過」で不適法だといわれ、請求を却下されかねません。
手抜き点検や違法建築については、6月18日の地震発生直後から、各マスコミによって何度も報道されています。すると住民はその時点で知ったともいえます。明日で地震発生からちょうど2か月ですが、明日は土曜日ですので、監査委員事務局の開いている今日にしたというわけです。
住民監査請求を適法に行わなければ、それを前提の手続きとして必要とする住民訴訟も不適法で却下されてしまいます。これまでも、住民訴訟をしなければ事実が分からなかったり、裁判所が行政側の言い分や監査結果を覆す判決を下したりしたこともありますので、住民訴訟をちゃんとできるように手続きを踏みたいと考えました。もちろん、監査委員が適切な監査結果を出し、市長らがその勧告に従えば何も問題はありませんし、私もそれを望んでいます。
いつもの住民監査請求なら、こんなにマスメディアに取り上げていただくことはないわけですが、児童の命が奪われるという悲しい事態が起き、その原因が市の違法建築と市教委の手抜き点検にあったので、注目を浴びることになったのだと思います。
是非、監査委員の皆様には、しっかりとした監査をしていただきたいと願っております。
以下は今回の住民監査請求の請求書の一部です。
1.事案の概要
(中略)
⑴ 建築当時から違法な本件ブロック塀等
本件ブロック塀は、同小学校の通学路沿いに、昭和49年から52年の間に建てられており、その高さは3.5メートルで、控壁もなく(新聞各紙)、当時の建築基準法の基準(昭和46年改正のもの)を満たさない、違法なものであった(特定建築物 調査者必携)。
また、市が地震後に行った緊急点検では、寿栄小学校以外にも15校で違法の可能性が高いブロック塀が確認され、国土交通省はその他にも6校のものを「危険」と判断した(6月28日毎日新聞)。つまり寿栄小学校を含めれば、少なくとも計22校で危険なブロック塀が建設され、放置され続けていたのである。
⑵ 手抜きをしていた点検事業者
市教委は、少なくとも、平成22年度、25年度、28年度において、本件ブロック塀を含む建築物の敷地及び構造の状況に関し、建築基準法12条2項に規定の点検(以下「定期点検」という。)をさせるため、事業者と契約を締結した(前記各年度の事業者を、それぞれ「22年度契約事業者」、「25年度契約事業者」、「28年度契約事業者」という。)。
22年度契約事業者は、本件ブロック塀について「是正箇所なし」と指摘した。なお、25年度契約事業者が22年度の点検報告書を丸写しし、そこに塀が存在しないと記されていることからすれば、22年度契約事業者は、本件ブロック塀が存在しないと虚偽の記載をしていたといえる。
25年度契約事業者は、22年度契約事業者の点検報告書を丸写しし、本件ブロック塀を点検すらせず、点検報告書には塀が存在しないことを意味する「-」を欄に記載した(6月23日産経新聞)。
28年度事業者は、本件ブロック塀について「目視で確認し、異常は見つからなかった」(6月23日産経新聞)、「調査したが前回(25年度)の報告書のとおり『―』とした」(6月29日朝日新聞)と説明した。しかし、目視で確認し、塀の存在を認識していたのであれば、点検報告書のいずれかの欄に「○」を記入していたはずである。目視さえしていなかったか、虚偽の記載をしたかのいずれかであるといえる。
後述のとおり、定期点検においては、国土交通省の告示により、塀も、点検対象とされている。塀が実在する以上、これを調査しなければ違法である。
本件ブロック塀は校門の近くにあり、児童らによって一面にカラフルな絵も描かれていたから、学校を訪問したのであれば、その存在に気付かなかったはずはない。また、前項のとおり、寿栄小学校以外の計21校でも危険なブロック塀が設置されていた。これらの塀も、多くは学校敷地の外周にあり、発見が困難だというような事情はない。容易く発見できたはずである。つまり、点検の手抜きは、寿栄小学校だけではなく、全学校的・全体的にされていたと考えられる。
上記3事業者は、法定点検の義務を違法に怠ったというべきであり、市教委との契約を履行しなかったということもできる。
⑶ 点検内容を確認しなかった市職員
本件ブロック塀は設置当時から違法建築物であり、その他の上記ブロック塀についても危険な状態で放置され続けてきたのだから、これらの設置工事の契約をし、塀を管理し、あるいは工事事業者に対して損害賠償請求や不当利得返還請求をしなかった市の担当職員には、故意過失があったというべきである。
また、定期点検についても、事前に点検項目を確認もせず、点検報告の虚偽記載も漫然と放置し、契約金を支払い、損害賠償請求や不当利得返還請求もしなかったのであるから、それらの各担当職員にも故意過失があったというべきである。
特に、平成27年11月には防災アドバイザーから本件ブロック塀の危険性が指摘されていたのに(6月22日産経新聞)、28年度契約事業者に点検をさせず、点検報告書にも注意を払わなかった担当職員には重大な落ち度があるといわざるをえない。
市は、「業者の検査結果を市職員がきっちり確認しなかったことは、市に落ち度があった」と認め、謝罪をしている(6月22日毎日新聞)。歴代の市長や教育長にも管理監督責任があるというべきである。
2.違法性及び損害
⑴ 関係法令等の定め
① 建築基準法12条2項の定め
国、都道府県又は建築主事を置く市町村の特定建築物の管理者である国、都道府県若しくは市町村の機関の長又はその委任を受けた者(以下この章において「国の機関の長等」という。)は、当該特定建築物の敷地及び構造について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員に、損傷、腐食その他の劣化の状況の点検(当該特定建築物の防火戸その他の前項の政令で定める防火設備についての第四項の点検を除く。)をさせなければならない。ただし、当該特定建築物(第六条第一項第一号に掲げる建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして前項の政令で定めるもの及び同項の規定により特定行政庁が指定するものを除く。)のうち特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て指定したものについては、この限りでない。
② 建築基準法施行規則5条の2の定め
法第十二条第二項の点検(次項において単に「点検」という。)は、建築物の敷地及び構造の状況について安全上、防火上又は衛生上支障がないことを確認するために十分なものとして三年以内ごとに行うものとし、当該点検の項目、方法及び結果の判定基準は国土交通大臣の定めるところによるものとする。
③ 平成20年3月10日国土交通省告示第282号の定め
定期点検の調査項目には塀等が含まれ、その点検方法や判定基準等が定められている。
④ 昭和46年1月1日施行時の建築基準法の基準
補強コンクリートブロック造の塀については、高さを3メートル以下にし、控壁を3.2メートル以下の間隔で設けなければならないとされている。
⑵ 違法性及び損害
① 定期点検に係る事業者の違法行為及び損害
上記⑴③のとおり、国土交通省告示により塀も定期点検の対象とされており、また、1⑵のとおり、実際に塀が容易く発見できる箇所に存在しているにもかかわらず、これを点検しなかったのであるから、22年度、25年度、28年度の各契約事業者の点検と称する行為は、建築基準法に反し違法であり、さらに、市教委との契約を履行しなかったという点でも違法である。
この違法行為による損害は、定期点検に係る契約に基づき各契約事業者へ支払った公金であるといえる。
② 定期点検に係る担当職員の違法行為及び損害
高槻市内の多くの学校に塀等が存在していることを、市教委の担当者や教育長等は当然に知っていたはずである。特に、防災アドバイザーから指摘を受けていたのであるから、本件ブロック塀については一層の注意義務を尽くすべきであった。
にもかかわらず、各契約事業者との間で調査項目を確認することもなく漫然と契約し、点検報告の手抜きを見逃し、公金を支出させたことは、それぞれ違法といわざるをえない。
この違法行為による損害は、各契約事業者へ定期点検に係る契約に基づき支払った公金であるといえる。
③ 請求を怠る違法
上記①の事業者及び②の職員等に対し、上記定期点検の契約に基づき支出した公金相当額の損害賠償請求又は不当利得返還請求を行わないことは違法である。
④ 本件ブロック塀等の建築等に係る違法行為及び損害
上記⑴④のとおり、昭和46年当時の建築基準法の基準においても、ブロック塀は、高さを3メートル以下にし、控壁を3.2メートル以下の間隔で設けなければならなかった。
本件ブロック塀が、この基準に反していることは明らかである。つまり設置当初から違法な建築物であった。また、地震後の緊急点検等において、上記のとおり少なくとも計21校で危険な塀が確認された。これらについては、違法不当な契約と工事がされ、公金が支出されたといえる。
これらを建設した事業者、並びに、契約や設計・施工の監理・確認を行った担当職員、塀の管理を行ってきた歴代の担当者に責任があることは明らかである。
また、これらの塀が違法・危険でなければ、撤去や安全対策のための費用は不要であった。
したがって、これらの塀の建設工事の費用だけではなく、撤去や安全対策等の措置、地震後の点検・調査等に要した費用も、市の損害であり、この損害分について、上記事業者や当時の市長・教育長・職員等に対し請求を怠ることは違法である。
4.正当な理由
定期点検で手抜きがされていたことや、学校のブロック塀の違法性については、一般の住民が相当の注意を払っても知ることができなかったのであるから、本件については、地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるというべきである。
第2 監査の請求
第1記載のとおり、上記定期点検契約及びブロック塀に係る各違法行為等に関し市の損害を回復しないことは違法不当である。
よって、請求人は、上記損害について、その詳細及びその責任者を明らかにしたうえで、事業者、関係団体、関係人、関係職員、決裁権者、専決権者、教育長、市長その他の責任者に対し、不当利得返還請求又は損害賠償請求することを勧告することを求める。
また、請求人は、上記の損害賠償請求権又は返還請求権の行使を怠る事実、並びに故意過失により時効消滅した債権につき当該責任者に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法不当であることの確認を求める。
請求人は、市や市教委に対し、定期点検等に関する情報公開請求を行ったが、市は公文書をほとんど公開しなかった。よって、新聞記事等を事実証明書として提出する。
監査委員におかれては、違法建築や手抜き点検によって、女児が死亡したことを鑑み、適切な監査・勧告をされたい。