高槻ご意見番

「高槻ご意見番」の代表で、高槻市議会議員の北岡たかひろのブログです。

【マスク着用児童急死】高槻市学校事故調査委員会の答申・調査報告書に問題あり

令和3年2月18日に高槻市立の小学校で起きた児童急死についての高槻市学校事故調査委員会の答申・調査報告書が本日提出されました。しかしその内容には問題が。


1.学校の責任について

国(スポーツ庁)は、中国でマスクを着けた生徒が体育の授業中に死亡した事例が出たことなどから、令和2年5月21日に、各学校に対して、学校の体育の授業では、①原則マスク着用の必要はなく、②着ける場合は「呼気が激しくなる運動」は控えるよう通知しました。そのことは、高槻市教育委員会が作成した「学校生活ガイドライン」にも記されています。

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児童は、体育の授業で「5分間走」を走っている時に倒れましたので、①教師が児童達にマスク着用を控えるよう指導していたかどうか、②「5分間走」が「呼気が激しくなる運動」に該当するかどうかがポイントです。

以下が答申ですが、②「5分間走」については、「呼気が激しくなる運動」か否かが問われなければならないのに、「学習指導要領に基づいた指導であった」と論点をずらし、①マスク着用についても、スポーツ庁の通知の趣旨を逸脱した指導とは認められないとして、教師がマスク着用を控えるよう指導していたかどうかは書いていません。

高槻市学校事故調査委員会の答申

調査報告書では、①マスク着用に関する指導については・・・

高槻市学校事故調査委員会の調査報告書におけるマスク着用に関する指導について

・・・「『走る際は必ず外しなさい』という指示はしていない。」とされています。国の通知に従えば、マスク着用を控えるよう指導しなければならかったのに、マスク着用を容認していたわけです。

②「5分間走」が「呼気が激しくなる運動」かどうかについては・・・

高槻市学校事故調査委員会の調査報告書における「5分間走」について

・・・運動強度の話にすり替えられています。国の通知によれば、あくまでも「呼気が激しくなる」かどうかであって、それは運動の強度で一概に測れるものではありません。持久走は、比較的低い強度の運動を長めの時間行うものであり、高い心拍数が持続するので、普通であれば呼気が激しくなります。そんなことは、実際に5分間、走ってみれば分かるはずです。

大阪府富田林市の議会で、中山祐子議員が「5分間走」について質問したところ、富田林市教育委員会は「一般的には、呼気が激しくなる運動にあたると考えられる」と答弁しました。これが一般的な見解ではないでしょうか。

こうしたことからすると、当日の体育の授業では、国の通知に反した指導がされていたとしか考えられません。それが児童の死に関係するか否かを問わず、やはりその点については、学校の責任があったというべきです。調査委員会の調査・検証には欺瞞があるといわざるをえません。


2.教育委員会の責任について

以上は、学校の責任についてですが、次に述べるとおり、教育委員会の対応にも問題があったと私は考えています。

こうした事故が起きた場合、教育委員会は、再発防止のために、市内の全学校に対して、呼気の激しい運動をマスク着用でさせないよう、徹底した指導をすべきだったのではないでしょうか。さらに、全国に向けて、こうした事例があったことを伝え、同じ事故が起きないよう呼びかけるべきであったと思います。

しかし、教育委員会は、本件の死亡事故について、児童がマスクを着用していた事実を伏せました

5月に私が教育委員会の職員に対して聞き取りを行い、マスコミ各社へ情報提供し、取材が殺到したことで、やっと事実を認めましたが、教育委員会が、マスク着用という重要な点を意図的に隠したことは、非常に問題であり、事故を隠蔽したも同然です。それだけでなく、事件発覚後、「5分間走は、呼気が激しくなるような運動ではない」とも主張し続けました。こうした誤ったメッセージを全国に発信するのは、殺人と同じだと私は思います。こうした教育委員会の対応についても、調査委員会は調査・検証し、非難すべきだったと思います。

ところが、答申の「2.再発防止・事故予防について」には、そうしたことは一切書かれていません。

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そもそも、学校の対応や指導に瑕疵がなかったとしていのに、なぜ再発防止や事故予防を提言する必要があるのか疑問ですが。

調査委員会は、こうした教育委員会の対応についても検証し、その責任を問い、再発防止策を提言すべきであったと思います。


3.児童の死因について

児童の死亡に関する学校の過失については、①「5分間走」中に児童がマスクを着用しており、②「5分間走」が「呼気が激しくなる運動」であり、③病理的にマスク着用が死亡に何らかの関係があること、の3点の調査・検証が必要です。

①児童がマスクを着用していたか否かについては、調査報告書で、同級生らへのアンケート調査の結果が示されています。

高槻市学校事故調査委員会の調査報告書における「児童がマスクを着用していたか否か」について

死亡した児童のマスク着用について、5分間走中「ずっとつけていた」、「途中ではずした」等、同級生が様々な証言をしているため、「いつマスクを顎にずらしたか、またどのようにマスクを着用していたかは明らかにすることはできなかった。」と結論付けられているのですが、「ずっとはずしていた」と答えた同級生は0人であることから、少なくとも、途中まではマスクをしていたといえるはずです。そうすると、マスク着用の影響がなかったとはいえないはずです。

②「5分間走」が「呼気が激しくなる運動」かどうかについては上記のとおり。委員らが実際に走れば、身をもって簡単に検証できるのに、それすらされた形跡はありません。

③病理的にマスク着用が死亡に何らかの関係があるのかどうかについては、中国等の事例でも、明確にマスクと死亡との因果関係が立証されたとの結果は探し出せないのですが、どのような事例でも、解剖等したところで、マスクが死因とは断定しきれないのではないでしょうか。

調査報告書には、ある医師の意見として「マスクが直接の原因となって死に至るとは考えにくい」と記載されています。しかし、以下のような検証・医師の意見もあります。

毎日放送は、この事件を受けて、医師の指導のもと検証。マスクを着用してランニングした記者は、「大きく息を吸うたびにマスクが口の中に入ってきて、全然息ができない状態。汗や出る空気で湿気がどんどん増えていくのもわかって、より口や鼻の穴にまとわりつく。非常に呼吸がしづらい」と。心拍数はマスクを着用した方がわずかに上昇し、医師は「今回の実験で心拍数がマスクを着けているほうが高く出たのは、呼吸のしづらさが心臓や肺に影響を与えたという可能性もあります。やはりマスクを着けての運動はマスクを着けていないときの運動と比べて、非常に運動の負荷が高くなる可能性を秘めています。負担が増えると、小学生や中学生のような心肺機能がまだ発達途上にある人は、病気が突然発症する可能性もあります」との意見を述べました。

医師によって見解が分かれるようですが、この検証結果からすると、マスクと死亡とは完全に無関係とはいえないはずです。

もし無関係だというのであれば、スポーツ庁の通知は無意味だということになるのではないでしょうか。

調査委員会は、スポーツ庁の見解を確認し、毎日放送の検証を指導した医師の意見を聞くなど、もっと多角的な検証をすべきだったのではないでしょうか。全国的に注目されている事件であるにもかかわらず、マスク着用と児童の死との因果関係の検証が、安易過ぎるように思えます。


4.当事者の市が設置する調査委員会の問題

高槻市教育委員会は、この事件が明るみになった5月以来、私の聞き取りやマスコミの取材に対して「学校に過失はなかった」との主張を繰り返しました。病理解剖も詳細調査も終えていない段階で、過失がなかったと断定する根拠は何もないにもかかわらず、そうした主張を繰り返したのは、当初から、何が何でも責任を認めないとする意図があったからだと考えられます。

大阪府北部地震の際、高槻市立の小学校のブロック塀が倒壊し、その下敷きになって女子児童が亡くなりましたが、その事故の調査報告書も、不自然にも、報道各社が地震直後から問題視していたブロック塀の建築基準法違反には触れず、倒壊の原因は内部の腐食等としました。学校施設の管理担当の職員や点検業者らの責任を免れさせるための、結論ありきの調査結果だと感じました。

今回の学校事故調査委員会の答申・調査報告も、上記のとおり、重要なポイントについて、論点をすり替え、十分な調査・検証をせずに、「瑕疵は見受けられなかった」と、学校にとって都合の良い結論を導き出したものと思われます。

他市のいじめ死の事件でも感じるのですが、こうした調査委員会の実態は、第三者委員会とは名ばかりで、実際には、市職員・教職員らの免責を後押しするためのものではないのかと疑問を覚えます。これでは、税金が投じられているにもかかわらず、十分に事実が解明されたとはいえず、遺族を失望させるばかりではないでしょうか。

本当の意味で第三者委員会とするためには、委員の人選や、委員への報酬の支払いを、当事者である市町村ではなく、せめて都道府県が行うほうがよいのかもしれません。