高槻ご意見番

「高槻ご意見番」の代表で、高槻市議会議員の北岡たかひろのブログです。

【債権放棄の市長専決を拡大】市有地が時効取得されるのを避けるため既往使用料を放棄するなんて非現実的だし違法では?

高槻市債権の管理に関する条例中一部改正について

これも先日の総務消防委員会で審議された条例改正案なのですが、市長の専決で債権放棄できるものに、市有地が時効取得される状況にある場合に、その土地を占拠してきた者に対して請求できる土地の使用料を加えるというものがありました。占拠者に対して使用料を請求しないかわりに、時効取得をやめてもらって、市有地を守りたいというのです。

しかし、本当にそんなことができるのでしょうか?

例えば、市有地を20年間占拠してきたAさんのところに、高槻市の職員がやってきて、「今まで市有地を使ってきた分の使用料は徴収しないので、その代わりに、時効取得はしないでください」と申し入れたとします。

すると、Aさんは、その市有地を時効取得できることを知って、時効取得をするのではないでしょうか?市の職員がそういうことを申し入れてきたということは、行政も時効取得が可能だとお墨付きを与えているようなものですし。また、もし時効取得しなければ、市有地から立ち退かなければならなくなるかもしれませんし、使用し続けられるとしても、土地を買い取るか、毎月賃料を払わなければならなくなります。

普通に考えれば、Aさんは時効取得を選択するはずです。

では、高槻市役所のほうは、Aさんが時効取得をしたからといって、これまでの土地の使用料を請求できるのでしょうか?

占拠者が土地を時効取得すると、その土地は、占拠を開始した日から占拠者のものということになるのです。Aさんのように、20年前から占拠を開始したとすれば、その土地は20年前からAさんの所有地ということになるので、使用料そのものが発生しなかったことになります。

ですので、高槻市役所が、Aさんが時効取得したことに怒って、使用料を請求しようとしても、それは不可能なのです。

つまり、この条例改正案で想定されているケースは、実際にはほとんど起こらないと考えられます。

また、もし、Aさんが時効取得をしなかった場合でも、高槻市役所は、使用料を放棄できるのでしょうか?

民間であれば、そういう取引や値引きみたいなことができるのかもしれませんが、行政にはそういうことはできないと思います。使用料を放棄できる法的な根拠を委員会で質問しましたが、訳の分からない答弁しかありませんでした。法的な根拠も合理的な理由もないのに、債権を放棄するのは違法だと私は思います。

そもそも、時効取得されるくらい長期間不法占拠されないように、市有地の現況調査を何年に1回は必ずするなど、不動産の管理をしっかりしていれば、こんな条例改正は必要がないはずです。

なのに何故こんな条例改正をしようとするのでしょうか?私は不法占拠された市有地の使用料を請求すべきであるとして、住民訴訟を起こして、勝訴したこともあります。もしかすると、「使用料は放棄した」といって、訴えの利益をなくさせ、住民訴訟を潰すのが狙いなのでしょうか?

以下は先日の総務消防委員会でのやり取りです。原稿とメモに基づいているので不正確な部分もあることをお許しください。

★議案第15号 高槻市債権の管理に関する条例中一部改正について

<1回目>

資料には、「債権放棄の市長専決事項を拡大」の項に、「既往使用料(過去に遡って徴収する使用料相当額)を徴収しないことにより、占用者による土地の時効援用取得を回避し、市有財産の保全もしくは売却の推進を図る」とあります。このことについてまず10点伺います。

(1)これは、どんな財産に関する、どういった場合を想定しているのでしょうか?

⇒第三者に占有された市有地が、時効の援用により取得される可能性がある場合を想定しております。

(2)原則として、公有財産については時効取得は認められないはずです。公有財産の時効取得についての市の見解をお聞かせください。
(3)時効取得されうる市有財産はあるのでしょうか?あるのであれば、どういったものが、どれだけあるのか、具体的にお答えください。

⇒普通財産が対象となるほか、行政財産であっても、黙示的に公用廃止がなされたと認められる状況にあれば、取得時効の対象となる場合があるとの判例がございます。

(4)既往使用料を徴収しないということは、現行の法令上ではどのような場合にできるのでしょうか?法令の条項も併せて、お答えください。

地方自治法施行令第171条の5の徴収停止に該当する場合でございます。

(5)これまで、既往使用料を徴収しないことによって、時効援用取得を回避したことはあるのでしょうか?あるのであれば、どういった事例だったのか、具体的にお答えください。
(6)市が、相手方に対して、「既往使用料を徴収しないことによって、時効援用取得を回避したい」と申し出た場合、相手方は時効を援用することに気付いて、時効取得を選択するのではないのでしょうか?これについての市の見解をお聞かせください。
(7)これまで時効取得された事例はあるのでしょうか?あるのであれば、どういったものがあるのか、具体的にお答えください。

⇒事例はございません。また、仮定によるご質問につきましては、相手方が時効を援用されるかどうかが分からないため、お答えしかねます。

(8)現在、時効取得の要件を満たしている市有地や市有の建物はあるのでしょうか?あるのであれば、どういったものがあるか具体的にお答えください。
(9)時効取得の要件を満たしてはいないものの、契約や許可もなく占拠されている市有財産、いわゆる不法占拠されているものは、何件、何平米あるでしょうか?最長で何年間不法占拠されているのでしょうか?それぞれお答えください。

⇒不法占用が認定された土地が一部ございますが、基本的には適切に維持管理できているものと認識しております。

(10)市有地や市有の建物の現況調査については、何年に1回行っているのでしょうか?市有財産の種類ごとにお答えください。

⇒財産を所管する部局において、日々の管理業務の中で現況の把握に努めております。

<2回目>

(1)市有の普通財産に関しては、どの課が、何年に1回、現況を確認しているのでしょうか?お答えください。
(2)行政財産であっても、黙示的に公用廃止がなされたと認められる状況にあれば、時効取得の対象となる場合があるということです。行政財産に関しては、どの課が、何年に1回、現況を確認しているのでしょうか?お答えください。

⇒繰り返しになりますが、財産を所管する部局において、日々の管理業務の中で現況の把握に努めております。

(3)不法占用が認定された土地が一部あるということですが、どういったケースだったのでしょうか?また、その際、市はどのような主張をしたのでしょうか?具体的にお答えください。

⇒不法占用が認定された土地についてですが、判決によるもので、本市といたしましては、費用対効果等も勘案しながら、適切に対応しているところでございます。

(4)地方自治法施行令第171条の5の徴収停止に該当する場合、既往使用料を徴収しなくても適法だということです。地方自治法施行令第171条の5では・・・

 普通地方公共団体の長は、債権(強制徴収により徴収する債権を除く。)で履行期限後相当の期間を経過してもなお完全に履行されていないものについて、次の各号の一に該当し、これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるときは、以後その保全及び取立てをしないことができる。
 一 法人である債務者がその事業を休止し、将来その事業を再開する見込みが全くなく、かつ、差し押えることができる財産の価額が強制執行の費用をこえないと認められるとき。
 二 債務者の所在が不明であり、かつ、差し押えることができる財産の価額が強制執行の費用をこえないと認められるときその他これに類するとき。
 三 債権金額が少額で、取立てに要する費用に満たないと認められるとき。

・・・と定められています。
 時効援用取得を回避するために、既往使用料を徴収しない場合というのは、先ほどの1号から3号のどれに該当するのでしょうか?お答えください。

(5)先ほどの地方自治法施行令第171条の5の規定からすると、時効援用取得の回避を理由とするだけでは、既往使用料を徴収しないということはできないので、そのような理由で債権放棄をすれば違法ではないかと考えられますが、市としてはどのようにお考えなのでしょうか?お答えください。

⇒先程「地方自治法施行令第171条の5の徴収停止に該当する場合」と申し上げた答弁につきましては、既往使用料を徴収しないことに関して、地方自治法第96条第1項第10号に定める現行の法令をご説明申し上げたものでございます。
 本議案につきましては、土地の取得時効に係る時効期間が満了した場合における、当該土地に係る私債権の放棄について、本条例も根拠法令の一つとなるよう、一部改正をご提案しているものでございます。

(6)こういったことを条例で定めて、債権放棄の市長専決事項を拡大するということですが、この債権放棄の決裁権者は誰なんでしょうか?市長なんでしょうか?お答えください。

⇒事務決裁規程第5条第15号において、市長の決裁事項と定めております。

<3回目>

(1)市有の財産に関しては、何年に1回、現況を確認しているかとお尋ねしたところ、「日々の管理業務の中で、現況の把握に努めて」いるというご答弁でした。ということは、市は、すべての市有財産の現況を把握しているし、当然、不法占拠の状況も把握していて、不法占拠者に対しては明渡し請求をするなど適切に対処しているから、現時点では、時効取得されるような状況にある市有財産は存在しないということなのでしょうか?お答えください。

⇒繰り返しになりますが、日々の管理業務の中で現況の把握に努めており、把握している限りにおいては、適切に維持管理できているものと認識しております。

(2)時効援用取得についておききしますが、例えば、Aさんが市有地を20年間占拠していて、その土地について時効援用取得をした場合、その土地は、いつからAさんのものということになるのでしょうか?20年前からAさんの所有地ということになるのでしょうか?お答えください。
 また、その場合、Aさんに対して、市は、その土地の既往使用料を請求できるのでしょうか?20年前からAさんの土地ということになるので、使用料自体、発生しなかったということになるのでしょうか?お答えください。

⇒土地の占有者が時効の援用により土地を取得した場合には、占有を開始した日から所有していることが認められることとなり、その場合、既往使用料も請求できないこととなります。

(3)地方自治法第96条第1項では、議会で議決しなければならないものが列挙されていて、ご答弁にあったその第10号では「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること。」と規定されています。つまり、条例に、債権放棄を市長の専決とすると定めておけば、議会の議決がなくても、市長は専決によって債権を放棄できると読めるわけですが、このように条例で定めておけば、合理的な理由がないのに、市長が債権放棄をしても、適法になるということなのでしょうか?市の見解をお聞かせください。

⇒債権放棄の条例の定めについてですが、違法性はないと考えております。
 また、条例において、市長が債権を放棄することができる場合を限定的に列挙することにより、適正な事務執行が担保できるものと考えております。

<4回目>
 あとは意見です。
 「既往使用料を徴収しないことによって、時効援用取得を回避したい」といのが、市の目的だということですが、そもそも不動産の占拠者が時効取得をすれば、たとえば20年前から占拠を開始したとすると、ご答弁でも認めておられましたが、その20年前から、その不動産は、占拠者のものだということになって、そもそも使用料なんて発生しなかったことになります。
 だから、市が、占拠者に対して、「使用料を徴収しないかわりに、時効援用取得をしないでください」と話を持ち掛けたとしたら、行政が、時効援用取得ができる状態だと認めたということで、普通なら、相手方は時効取得してしまうだろうし、時効取得されてしまったからといって、市が使用料を徴収しようとしても、そもそも使用料なんてなかったことになるんですよ。だから、条例改正案のこの部分については、実際上、意味がないわけです。
 もし意味があるとすれば、占拠者の方が、無欲なお人よしの方で、時効援用取得できるのに、時効取得しない場合ですよね。でもその場合、既往使用料の請求権を市が放棄できるのでしょうか?その債権を放棄できる法的根拠や合理的な理由がありません。民間であれば、時効取得をやめてもらう代わりに、これまでの使用料を請求しないでおこうということができるのかもしれません。けれども、行政がそういった取引や割引みたいなことをすることはできるのでしょうか?
 ご答弁によると、その法的な根拠は地方自治法96条1項10号しかないようですけれども、この条項は先ほど申し上げたとおり、本来は議会で議決しなければならないものを定めたものです。条例でさだめれば、それを市長に専決させてもいいということになりますけれども、先ほどのべたようなことを、議会として認められるのか、市長に専決させてもいいのかということが、この審議で問われているわけです。普通に考えれば、こんなおかしなことは認められないし、市長にも専決させられないと思います。ですから私はこの議案には賛成できません。他の委員の皆さんも、特に、時効援用取得に関する現実的な場合をよくよく考えていただいて、反対をしていただきたいと思います。
市有の不動産を時効取得されてしまうような状況というのは、何年かに1回、現況調査をするとか、不法占拠がされていれば法的措置等を採るとか、財産の管理をしっかりとやっておけば、基本的には起きないはずです。けれども、高槻市では、答弁にもありましたように、裁判所に不法占用を認定された事例もあるわけです。
 まずはすべての市有財産の現況を調査して、その結果を議会に示してください。市は、平成14年度から15年度にかけて、里道や水路を全て調査したのに、その調査結果を全て廃棄したといっていますが、そんなものは言語道断です。あらためて調査と調査結果の公表を要望します。以上です。