高槻ご意見番

「高槻ご意見番」の代表で、高槻市議会議員の北岡たかひろのブログです。

【転載】資産格差を無視、所得格差に過剰反応して、世代間格差を置き去りにする日本

フリーライター宮島理さんが、メルマガで、目からうろこの鋭い指摘をされていましたので、ご紹介させていただきます(許可を得て転載しております)。

*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*
             フリーライター宮島理
                プチ論壇
                通算0227号
              2010年02月08日発行
*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*

──────────────────────────────────────
               仕事依頼募集中!
          取材記事・インタビュー・書評・コラム
       コピーライティング・テープ起こし・リライトなどなど
      宮島理のこれまでの実績は下記プロフィールをご覧下さい
          http://miyajima.ne.jp/profile/
──────────────────────────────────────

資産格差を無視、所得格差に過剰反応して、世代間格差を置き去りにする日本
──────────────────────────────────────
 衆院選で「フリーター議員」として注目された民主党磯谷香代子議員が、実は資産家だった。

「資産等報告書や不動産登記簿によると、磯谷議員は平成20年5月、愛知県豊田市トヨタ関連工場に隣接する計5210平方メートルの山林や田畑を親族から相続。トヨタ自動車6千株(5日終値で約1990万円相当)を中心に、住友金属工業6千株▽楽天7株▽御園座1千株-など計2266万円相当の株も保有していた。また、国債も300万円分あり、約47万円を金銭信託するなど資産運用もしていた」
産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100208/plc1002081007001-n1.htm

 この事実自体には、別に何とも思わない。小泉チルドレンの杉村議員も、いわゆるフリーターや「ひきこもり」とは違う境遇だったにも関わらず、同じ境遇という「設定」を売りにしていた。所詮は政治家のイメージ戦術なのだから、有権者も話半分で聞いている。
 それよりも考えたのは、「格差社会」ということが言われるようになった日本では、なぜか所得格差にばかり過剰反応して、資産格差を無視しがちということだ。だからこそ、磯谷議員の所得にばかり目を奪われて、「フリーター議員」という弱者アピールが思いの外、目立つことができた。
 ここで、格差社会について今さらだが再考してみたい。
 まず、日本で格差社会が広く話題になったのは、大手メディアが2006年から格差社会キャンペーンをはったからだ。その際に、格差拡大の根拠としてあげられたのが、2002年に所得のジニ係数が0.4983になったというものである。この数字だけを見ると、25%の富裕層が所得総額の75%を得ている計算になる。この20年間で大幅に上昇し、2005年には0.5263にまで拡大した。
 ところが、0.5263というジニ係数は、当初所得が元データとなっている。この当初所得には、年金収入や医療費給付などの社会保障給付が含まれていない。つまり、極端な話、高齢者の所得がゼロとして計算されるので、高齢化が進む日本では格差拡大の指標としては役に立たない。
 同時期のジニ係数を元データを変えて見てみると、可処分所得のジニ係数は0.314で、先進国平均と変わらない。可処分所得は、社会保障給付などを再分配した後に家計が自由に使えるお金である。可処分所得のジニ係数は2000年代に入って減少傾向にある。つまり、「小泉政権下で格差は縮小した」というのが真実だ。
 民主党は「小泉政権下で格差が拡大した」と批判してきた。格差を解消するために、「可処分所得の上昇」を目標としているが、そうであればジニ係数も可処分所得を根拠にすべきだ。そして、民主党は「小泉政権下で格差が拡大した」という大嘘をついていたことを謝罪すべきだろう。

http://miyajima.ne.jp/image/kakusa-shotoku.jpg

 また、格差社会の根拠として、「貧困率」が取り上げられることもある。2005年頃の日本の貧困率は14.9%だ。先進国平均(10.6%)よりも高い。先進国の中で4番目に高い水準となっている。(OECD統計より)
 しかし、ここにもカラクリがある。ここでいう貧困率とは、相対的貧困率のことで、その定義は「世帯所得の中央値の、さらに半分以下の所得の世帯比率」というものだ。日本の場合は、世帯所得250万円以下が目安となる。
 一方、絶対的貧困率を見ると、日本は先進国の中で最も低い水準である(Pew Global Attitudes Projectという国際世論調査2002年版より)。絶対的貧困とは、食料、医療、被服などの生活必需品を調達できないレベルの貧困を意味する。
 続いて、資産のジニ係数を見てみよう。日本では無視されがちな資産格差の問題である。

http://miyajima.ne.jp/image/kakusa-shisan.jpg

 日本における資産のジニ係数は、バブル崩壊後の地価下落も影響して、基本的に低下している。グラフ中の純資産=実物資産(不動産など)+金融資産(貯蓄など)-負債(住宅ローンなど)である。
 国際的に見ても、日本の資産格差は小さい。1990年代後半の資産のジニ係数は、日本0.564、イタリア0.616、イギリス0.690、カナダ0.727、アメリカ0.822となっている。
 このように、日本では資産格差はほとんど問題にならない。資産格差に着目してしまうと、「日本って格差が少ない社会なんだね」という事実が明白になる。だから、格差社会を煽りたい人たちは、所得格差だけに着目し、さらに可処分所得ではなく当初所得を取り上げて、過剰反応したというわけだ。
 余談だが、2006年に大手メディアが格差社会を煽るキャンペーンをはったのどうしてだろう。ここからは少々うがった見方になる。国会で格差社会をめぐる議論が活発化したことも影響しているだろうが、それとは別に大手メディアなりの事情もあったような気がする。
 大手メディアはずっと構造改革を支持して、規制緩和などに反対する「抵抗勢力」を批判してきた。しかし、2005年11月に新聞宅配制度の規制緩和の検討作業が始まり、2006年に本格化すると様子が変わり始める。新聞宅配制度を死守したいマスメディア自身が「抵抗勢力」となり、「規制緩和は格差につながる」という論調を(無意識にせよ)煽った。

http://miyajima.ne.jp/image/kakusa-hodo.jpg

 2006年5月に、新聞宅配制度の規制緩和が見送られることが濃厚になってくると、格差社会報道は減少していく。6月2日に見送りが正式決定されると、さらに報道は減った。
 それまで「既得権を打破せよ」と主張していた人たちが、いざ自分の既得権に手が及んでくると、簡単に「抵抗勢力」化してしまうというわかりやすい例である。大手メディアに限らず、こういった流れが他の領域でも起きて、2007年参院選に大きく影響したと考えられる。
 閑話休題。所得格差も資産格差も、日本ではそれほど問題ではないし、少なくとも小泉政権下で所得格差は縮小した。では、日本は格差社会ではないと言い切っていいのだろうか。格差社会キャンペーン自体は、無責任な煽りでしかなかったけれども、そういう煽りの中からも、貴重な真実が見えてくる。
 就職氷河期世代の問題や社会保障費の給付・負担バランス問題に代表されるように、格差社会の本質とは、所得格差でも資産格差でもなく、世代間格差である。ネズミ講的な社会保障制度の綻びを隠すために、過大な負担が若年層や将来世代に押しつけられ、これまたネズミ講的な日本型雇用システムの矛盾を覆い隠すために、若年層や将来世代の就労機会(所得)が犠牲になっている。
 社会保障費を聖域にしてバラマキを続け、日本型雇用システムを死守しようと規制強化を進める民主党政権は、そのスローガンとは逆に、世代間格差という本当の格差社会問題を悪化させているのである。

宮島理

*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*
★ご意見・ご感想&問い合わせ先 info@miyajima.ne.jp
★作者プロフィール&お仕事募集 http://miyajima.ne.jp/profile/
★本誌の登録および解除 http://www.mag2.com/m/0000064220.htm
*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*'``'*:-.,_,.-:*
◎プチ論壇
のバックナンバー・配信停止はこち
http://archive.mag2.com/0000064220/index.html