高槻ご意見番

「高槻ご意見番」の代表で、高槻市議会議員の北岡たかひろのブログです。

【附属機関訴訟上告審】最高裁に上告しました

大阪地裁で一部勝訴、大阪高裁でも実質勝訴(高槻市の名ばかり勝訴)した附属機関訴訟について、最高裁判所に対し、7月7日に上告受理申立てを行い、本日、上告受理申立て理由書を提出しました。

以下がその内容です。

上告受理申立理由書

第1 はじめに

1 本件の意義

本件は,地方自治法(「法」)138条の4第3項所定の「附属機関」に関する住民訴訟である。
自治体が設置した組織が「附属機関」に該当するのか,違法なのか,あるいは組織の委員の報酬に係る損害賠償責任が首長にあるのかについて,最高裁が判断した例はない。
奈良地裁平成26年2月18日判決で,「平成24年頃以前に出された下級裁判所の裁判例には,法138条の4第3項所定の附属機関を法律又は条例によらず要綱によって設置することが違法である旨を判示するものが複数存在するが,これが適法である旨を判示するものは見当たらない。」とされているとおり,多くの下級審で上記組織が違法と判断されているところである。
さらには,首長の損害賠償責任についても,上記奈良地裁判決をはじめ,名古屋地方裁判所平成10年10月30日判決等複数の判決で,認定されている。広島高裁岡山支部平成21年6月4日判決では,平成14年に要綱違法解釈の判例が3件出ていたことに鑑みれば,市長個人に公金違法支出にかかる過失が認められてしかるべきである旨判示されているところである。
しかし,原審の大阪高裁は,高槻市が条例によらず設置した組織がすべて「附属機関」に該当し,違法であると認定する一方で,市長の賠償責任は認定しなかった。
つまり,高裁では,首長の賠償責任に関して,判断が分かれているのである。
本件に関し,大阪高裁及び大阪地裁は,最高裁判例がないことも,市長・濱田に過失がなかった理由としている。最高裁判例が存在しない状態のままだと,全国的に,違法に「附属機関」が設置されているのに,首長等に過失がなかったとして,自治体の損害が回復されない状況が続いてしまう可能性がある。
最高裁におかれては,こうした状況を改めるために,ぜひ,早期に,判断を示していただきたい。

2 事案の概要と判決の要旨

高槻市が設置した高槻市事業公開評価会(高槻版事業仕分け)外5組織(「本件各組織等」)は,法138条の4第3項所定の「附属機関」に当たるにもかかわらず,本件各組織等が法律又は条例に基づくことなく設置されているのは違法であり,市長である濱田剛史(「濱田」)は,故意又は過失により,本件各組織等の委員等に対する謝礼金の支払に係る支出負担行為及び支出命令を自らし,又は指揮監督上の義務を怠って市の職員に専決させ,これによって,市が損害を被った旨,申立人が主張して,市の執行機関である相手方に対し 法242条の2第1項1号に基づき,本件各組織等のうち5つについては各組織等に関する公金の支出の差止めを求めるとともに,同項4号本文に基づき,4つについては市が支出した上記謝礼金相当額及びこれに対する不法行為の日の後である平成25年1月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金について,濱田に対する不法行為に基づく損害賠償請求をするよう求めた住民訴訟である。
本件各組織等と,申立人の差止め請求及び損害賠償請求の関係は,下記の図のとおりである。

本件各組織等  差止め請求  賠償請求
高槻市事業公開評価会 ○ ○
高槻市特別顧問 ○ ○
高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会 ○ × 
高槻市立障害者福祉センター運営協議会 ○ ○
高槻市採石等公害防止対策協議会 ○ ×
高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員 × ○

原審は,前項のとおり,本件各組織等が違法であると認定したものの,濱田の賠償責任については,「・・・附属機関の意義について解釈を示したり,具体的な事例について附属機関該当性の判断を示した最高裁判例や,法律又は条例によらずに設置された附属機関に相当する機関に係る支出について,その適法性を判断した最高裁判例は存在せず,下級審裁判例レベルでも,附属機関の意義の解釈やそのあてはめについて確立した判断が形成されていたとまでは認め難いこと,学説も『附属機関』の意義の解釈について必ずしも一致をみていなかったこと,本件各財務会計行為が行われた当時,法138条の4第3項に照らし附属機関と認められるべき組織であっても,行政実務上は,これに該当しないものとして扱われていた例が少なからずあったものと推認しうる」などとして,認定しなかった。
差止め請求については,一審が申立人の請求を一部認容したにもかかわらず,相手方が一審ではしなかった主張(一審審理中に既に要綱を廃止したといったもの)を原審は鵜呑みにして,認容しなかった。

3 上告受理申立ての理由

原判決は,高裁判例に反し(上記のとおり,最高裁の判断は未だ示されていない),また法令の解釈に関する重要な事項について判断を誤ったものであるから,上告を受理し,原判決を破棄の上,自判により申立人の請求を認容するか,差し戻すべきである。

第2 上告受理申立て理由

1 広島高裁岡山支部平成21年6月4日判決等に反すること

第1第1項記載のとおり,広島高裁岡山支部平成21年6月4日判決では,平成14年に要綱違法解釈の判例が3件出ていたことに鑑みれば,市長個人に公金違法支出にかかる過失が認められてしかるべきである旨判示されている。名古屋地方裁判所平成10年10月30日判決や奈良地裁平成26年2月18日判決でも,首長の賠償責任が認定されているところである。
しかし,原審は,市長・濱田の賠償責任は認定しなかった。これは上記判例に反するものであり,不当である。濱田の賠償責任は認定されるべきである。
なお,原審の判断は,上記判例からすれば,少数派と考えられる。

2 法138条の4第3項の解釈の誤り

⑴既存条例の「分科会」などにはできない

原審は,高槻市事業公開評価会について「1審原告は,第2の4(1)アのとおり述べ,議会の承認を得ず,市長の裁量のみで高槻市事業公開評価会が行う職務を別の機関(高槻市行財政改革推進委員会)の分科会にさせるのは,附属機関は法律又は条例で設置すべしとする法138条の4第3項を潜脱する行為で許されず,今後も分科会と称して開催され,公金が支出されると考えられるから,評価会に関する公金支出の差止めは認められるべきであると主張する。しかし,「高槻市事業公開評価実施要綱」が平成25年4月16日に廃止され,これにより同要綱に基づき設置された評価会が今後開催される見込みがなくなった・・・」として申立人の主張を退けた(原判決16頁)。
しかし,法138条の4第3項「普通地方公共団体は,法律又は条例の定めるところにより,執行機関の附属機関・・・を置くことができる。」と定めているのであるから,これまで条例に基づかずに置いてきた組織を,条例を制定又は改正することなく,既存の条例には「高槻市事業公開評価会」の名称すら記載されていないのに,適法な既存の附属機関の「分科会」だと称して設置・開催することは,法138条の4第3項の潜脱といわざるをえない。
このようなやり方を認めてしまえば,いくらでも違法な組織を,条例で定めることなく(すなわち議会の承認を得ることなく),設置できることになってしまう。違法設置がバレたら,高槻市のように「分科会にしました」と言い訳すればいいのだから。
したがって,原審は,法138条の4第3項の解釈を誤っているというほかはない。

⑵要綱の改廃を理由に差止め請求を認容しない不当

原審は,本件各組織等の要綱が改正・廃止されたことをもって,「今後公金の支出が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえない。」などとする(原判決13頁5行目ないし15頁18行目)。
しかし,要綱は,条例とは違い,首長の裁量で制定・改正・廃止されるのだから,今後,相手方は,いくらでも報酬等の公金を支出する旨を定めた要綱を,自由に制定・改正することができる。したがって,今後公金の支出が行われないとはいえない(現に相手方は,一審では,高槻市特別顧問,高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会,高槻市立障害者福祉センター運営協議会の要綱の改正又は廃止,高槻市採石等公害防止対策協議会の解散について,まったく主張しなかったのに,二審において突如主張した。これらの要綱の改廃や解散は,公布・告知・広報等は一切されず,議会にも報告されていない。裁判で勝つために捏造等がされたと考えられる)。
法138条の4第3項が,法律又は条例の定めるところにより附属機関を置くことができるとしている趣旨は,要綱によるこうした首長の裁量を認めないことにほかならないのであるから,原審が,要綱の改廃を理由として,今後の公金支出の可能性を否定するのは,法138条の4第3項の解釈を誤っているといわざるをえない。

3 法154条の解釈の誤り

濱田の賠償責任については,第1項記載のとおり認定されるべきである。特に,高槻市事業公開評価会(=高槻版事業仕分け),高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員,高槻市特別顧問については,濱田自身が議会で説明しているのであるから(甲B-4, 甲C-3,甲D-2),少なくともこれらについては,濱田に故意又は重大な過失があったといわざるをえない。これらを設置する際に,法138条の4第3項の定めだけでなく,判例も検討できたはずである。
仮に,濱田自身に過失がないとしても,濱田には,本件各組織等に関する要綱制定及び報酬支出に係る財務会計行為につき,専決を任された補助職員が違法行為をすることを阻止すべき法154条所定の指揮監督上の義務があった。具体的には,法令に基づく公金支出なのか確認せよという,極めて基本的な指示を職員にしていれば足りていたはずである。しかし,濱田は,この義務に反し,故意又は過失により上記補助職員が非財務会計上あるいは財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったのであるから,高槻市に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負うというべきである。これを認容しなかった原審は法154条の解釈を誤っているといわざるをえない。
高槻市立障害者福祉センター運営協議会については,報酬についての明文の規定がなかった(要綱にすら報酬の定めがなかった)にもかかわらず,原審は,「・・・濱田において,本件各財務会計行為が行われた当時,本件各組織等が附属機関に該当すること,さらには,自らや市の職員が各財務会計行為を行うことが違法であり,これによって市に損害を与えることになることを認識し又は認識し得たものとまで認められない」として,濱田の責任を認めなかった(原判決19頁3行目ないし最終行)。
明文の規定がないにもかかわらず,違法に設置した附属機関の委員らに対し,報酬を支給しても,損害賠償の責任が問われないのであれば,誰に対しても,いくらでも,公金から報酬を与えることができてしまう。そのような行政の無秩序を容認するべきではないし,そうした場合には,首長に指揮監督上の責任を負わせるべきである。
これについても原審は法154条の解釈を誤っているというほかはない。

第3 結語

以上のとおり,原判決は,高裁判例に反し,法令の解釈に関する重要な事項について判断を誤っているから,上告を受理し,原判決を破棄の上,自判により申立人の請求を認容するか,差し戻すべきである。

以 上