高槻ご意見番

「高槻ご意見番」の代表で、高槻市議会議員の北岡たかひろのブログです。

【道路区域誤指導】高槻市の道路情報の管理は大丈夫か?

市道誤指導事件

高槻市役所の誤った指導により、マンションの管理組合や建設会社が、不要な支払いを大阪府に対してしていたということが分かりました。

建築物の敷地は、道路に2メートル以上接しなければならないと建築基準法で定められています。とあるマンションは、上の図のとおり、敷地と市道との間に、大阪府が管理する河川敷があるということで、建設会社は、高槻市から、大阪府の河川占用許可が必要だと指導されたため、その手続きを行い、府には河川占用料等が納められてきました。

マンションの管理組合は、この河川敷はいつか道路の扱いになり、その時には河川占用料を納める必要がなくなると聞かされていたようです。そういうこともあってか、管理組合が、高槻市役所に対して、河川敷の法的扱いについて調査依頼をしたところ、昨年、河川敷の部分も、平成9年に、道路区域として高槻市が認定していたということが分かったのです。

道路であれば、当然、占用料等の支払いは不要。マンションンの建設は平成19年から始まったので、その時から、高槻市役所の誤指導のために、不要な出費を強いられてきたわけです。

もし、同じように、占用料等を支払われている方がおられたら、一度確認してみたほうがいいかもしれません。

管理組合は最初、建設会社に賠償を求めたり、大阪府に返還を求めたりしたようですが、建設会社にも大阪府にも過失がなく、誤指導を行った高槻市役所がすべて悪いということで、高槻市が占用料等相当額(計19万6190円)の賠償をしました。

こういうミスがあったのに、高槻市役所に訊いても、どの職員が誤った指導をしたのか分からないというのです。

府が管理する河川敷を、市が道路区域として認定する場合、市から府へ河川占用許可申請をしなければいけなかったのですが、それもされていなかったということも、情報公開請求で分かりました。でも、それも誰のミスなのか分からないというのです。

「責任者、出てこい!」という感じですが、職員の処分もされず、責任があいまいにされていることもあり、8月15日に住民監査請求を行いました。その結果は先日届いたのですが・・・最終的には、平成17年度から運用を開始している、GIS(地理情報システム)を利用した道路管理システム(通称「GISシステム」)に、平成9年の河川敷の道路区域変更の情報が入っていなかったからだ、というのが監査委員の判断でした。GISシステムに入っていなかったから、誤指導もしかたなかったと。

何故、GISシステムに、平成9年のものが入っていなかったのか。監査委員は・・・

平成9年変更の図面情報がGISシステムに掲載されていなかった原因について、管理課によれば、道路図面等の情報入力を行っていた委託業者の確認漏れや委託業者に渡した紙図面が欠けていた可能性、情報入力後の当該情報の誤消去などが考えられるとしているが、その原因の特定には至っていない。


・・・と、原因が分からないとしています。

そして、「関わった職員のいかなる行為により当該図面情報の入力漏れが生じたのかが明らかでない」し、「仮に市が職員に本件賠償金額を求償するためには、市は、当該職員を特定し、故意又はその過失の態様を明らかにし、その過失が重大な過失であることを立証しなければならないところ、そのいずれもが立証できる状況ではない以上、市が求償権を行使し得ないことは明らかである。」だということです。

GISシステムに入力できていなかったことが悪いということですが、当時のチェック体制はどうなっていたのか。その後もデータをチェックしていなかったのか。他に入力漏れはないのか・・・疑問がいろいろと湧いてきます。

高槻市役所の道路情報の管理は大丈夫なんでしょうか?今回の件で信頼性が大きく揺らいだわけですから、総点検を行うべきでしょうね。

以下は監査結果です。

高監委第256号
平成26年10月10日
北岡隆浩様

高槻市監査委員

住民監査請求の監査結果について(通知)

 平成26年8月15日付け高監委第171号で受理した地方自治法第242条第1項に基づく住民監査請求についての監査結果は別紙のとおりであり、同条第4項の規定により通知します。

住民監査請求監査結果

1 請求の受理

 平成26年8月15日に請求人から地方自治法(以下「自治法」という。)第242条第1項の規定に基づき提出された住民監査請求(高監委第171号)は、形式上の要件を具備しているものと認め、同日付けで受理した。

2 請求の要旨及び理由

 監査に当たり、請求書記載事項及び事実証明並びに請求人の陳述から請求の要旨及び理由を次のように解した。

(1) 請求の要旨

 平成19年12月頃、高槻市(以下「市」という。)の担当者がA株式会社(以下「甲社」という。)に対し、Bマンション(以下「本件マンション」という。)の建設に関して協議を行った際、本件マンションが市道殿町2号線(以下「本件市道」という。)に接道していたにもかかわらず、接道していないとして大阪府(以下「府」という。)に河川占用料等を納めるよう誤指導した。そのため、市は、本件マンション管理組合、甲社及び株式会社C(以下「乙社」という)に対し、本来賠償する必要のなかった196,190円を支出せざるを得なくなり、市に損害を与えた。
 しかし、市に損害が発生しているのに、誤指導をした職員に対して、高槻市長(以下「市長」という。)が何ら措置を講じないのは不当である。
 よって、誤指導をした職員を特定し、また、本件に関わった別の職員がいるのかも調査した上で、関係人、関係職員、関係団体、決裁権者、専決権者、市長、高槻市職員その他の責任者らそれぞれに対して、不当利得返還請求又は損害賠償請求することを求める。
 また、それらの不当利得返還請求又は損害賠償請求を怠る事実の違法確認を勧告することを求める。

(2) 請求の理由

 本件誤指導の原因は、市の担当者が平成9年3月31日の道路区域変更により、本件マンションと本件市道との間の河川敷(府有地)も道路区域となっていたことを見落としたことにある。また、同月に府と市との共同で行われた本件市道の整備に関しては、道路法の区域変更手続は行われたが、河川法の要件である市から府への河川占用許可申請はなされていなかったという不備もあった。市は誤指導の責任を認め、本件マンションの関係者らと示談し、平成19年度から24年度までの河川占用料及び河川一時占用料(以下「本件河川占用料等」という。)相当額196,190円を賠償した。本来は、本件誤指導をした職員及び管理監督すべき立場にあった職員個人が賠償すべきところ、市長はその職員が誰なのか不明であるとして、賠償請求及び処分を怠っている。

3 監査の実施

(1) 監査対象事項
 本件マンション管理組合、甲社及び乙社(以下「本件開発事業者等」という。)に支払った賠償金について、市に損害が発生しているにもかかわらず、誤指導をした職員及び管理監督責任がある職員らに対して、市長が求償していないことが不当であるかを監査の対象とした。
 なお、請求人は、本件賠償金の不当利得返還請求又は損害賠償請求を怠る事実の違法確認を勧告することを求めているが、当該確認については、自治法第242条第1項所定の監査対象事項ではないことから監査の対象外とした。

(2) 監査対象部課
 都市創造部管理課

(3) 請求人の証拠の提出及び意見陳述

 平成26年9月3日に、自治法第242条第6項の規定に基づき、請求人から概要、次の陳述があった。
 市は、接道していないという間違った判断をした過ちを認めて示談したわけであり、本件賠償金の額が市の損害である。市は、その原因を作った職員が誰なのか分からないとしているが、当時の都市産業部開発指導室指導課の建築指導チームが誤指導をしたとされているので、これらの職員に対して事情聴取をすれば、あるいは当時の日報などを確認すれば、誰が誤指導をしたのか分かるはずである。それでも分からないのであれば、少なくともチームリーダーか課長に管理監督責任があった。
 また、市から府への河川占用許可申請を怠っていた責任も問わなければならない。この申請をしていれば、本件マンションの不動産会社が河川占用許可申請をした際に、河川占用料等が不要であったことに気付いた可能性もある。よって、この申請を怠ったのが誰なのかも特定して処分し、そのことについて公表することを要望する。

(4) 関係職員の陳述

 平成26年9月3日に、自治法第242条第7項の規定に基づき、都市創造部の部長、部長代理、同部管理課の課長、課長代理及び主査が陳述を行った。
その際、請求人の立会いを認めた。

ア 関係職員の陳述は、概要、次のとおりである。

 平成元年頃から府と市を共同主体とした「あくた川21事業」を計画し、芥川の環境整備をそれぞれ役割分担し、同事業を実施することとなった。これに伴い、河川堤防の法面部分について整備が行われ、平成7年3月31日付けで元河川堤防であった部分を道路区域に編入した(以下「平成7年変更」という。)。更に、平成9年3月31日付けで道路区域を拡大する手続を行い(以下「平成9年変更」という。)、この手続をもって本件マンションの前面道路は、市の管理する道路区域となった。河川区域内を道路法に基づく道路区域に編入する際は、河川管理者(府)に対し河川法に基づく占用許可を得る必要があるが、河川管理者(府)との共同事業であることから河川占用許可手続を行わなければならないという認識が欠如していたため、この手続がされないまま道路区域の変更手続がなされた。
 平成19年頃、本件マンション建設について市との協議が行われた際、当時の担当者が、建設予定地の前面道路は、府の河川占用許可が存在しなかったこと、また、平成9年変更の図面の存在に気付かなかったことから、当初より管理していた河川堤防の頂上部分のみを市道と誤認し、元は法面であった部分で道路として拡幅した部分を道路区域でないものと誤って判断し、その旨を指導した。この誤指導に基づき、本件マンション施工主は、マンション敷地と道路との接道を確保するため、河川占用許可申請を府に対して行うことを前提に開発協議(以下「本件開発協議」という。)を行い、許可を得て本件マンションを建設した。
 本件マンション建設後、河川占用許可の権利は本件マンション管理組合に移った。平成25年1月に同管理組合が河川占用許可の更新を行うに当たり、市に対して本件マンション敷地前の道路の法定位置付けについて再度調査があった。この際、市は平成9年変更の存在に気付き、既に市の道路区域に編入されているものの、市は府からの河川占用許可を得ていないことが分かった。このため、市は、平成25年4月に府に対して、河川占用許可手続が未了であった道路区域変更箇所の河川占用許可手続を行った。
 これらの事実が判明したため、平成25年5月、同管理組合から過去に支払った河川占用料の負担を申し入れる文書が市に提出された。市の顧問弁護士から、市の誤指導により本来支払う必要のない河川占用料等の支払義務が生じたものであること、府は、河川占用許可手続自体に暇庇がなく還付できないと判断していることから、市が賠償するのはやむを得ないとの見解を得た。よって、国家賠償法に基づき過去に支払った河川占用料相当額を賠償金として支払うこととし、同時にマンション施工主等が支払った占用料についても賠償することとした。
 本件誤指導に至った理由は、複数の要因に基づくものと考えている。1点目は、河川占用許可手続の不備である。通常、河川区域内に市道を整備する際は、事業を実施する課が、河川管理者(府)に対し河川占用許可申請と施行承認の手続を行い、その後、道路管理者である管理課が河川占用許可書を引き継ぎ、以後5年ごとに更新を行っていく。しかし、本件市道の整備に関しては、府との共同事業であることから当該手続がなされておらず、当該地は道路区域でないという誤認につながった。この原因は、道路整備自体が「あくた川21事業」に基づく府と市との共同事業であったため、主に河川管理者(府)が道路拡幅工事を行い、完成後の道路の維持管理は市が実施することとなっていたことから、市が河川占用許可手続を行わなければならないという認識が欠如していた。
 2点目は、GIS(地理情報システム)を利用した道路管理システム(以下「GISシステム」という。)の問題である。市では道路に関する膨大な資料を効率よく管理するため、GISシステムを用い、各種台帳等の紙ベースで作成されたものを全てデータ化し、地図とリンクさせて管理を行っている。しかし、GISシステム上では、平成7年変更の図面は掲載されていたものの、平成9年変更の図面は掲載されていなかったため、GISシステム上で確認を行った担当者が平成9年変更の図面の存在に気付くことができず、誤判断につながった。
 本件誤指導は、特定の一つのミスが原因ではなく、複合的要因により結果的に誤判断に気付くことができなかったこと、また、これらは事務手続上のミスに当たり、職員又は当時の管理監督者に故意又は重大な過失があったものとまでいうことはできないことから、当該職員等に求償はできないと考えている。

イ 関係職員の陳述に対する請求人の反論の概要は、次のとおりである。

 河川占用許可手続がされなかったのは、府と市の共同事業で、府が道路を拡幅し、市が管理するという認識の欠如があったとのことだが、その認識をその場で確認しておく必要があり、そこに不備があった。市の職員に責任があった。
 GISシステム上の問題があったということだが、実際はシステム上の不備はなかったのではないか。複数の要因により気付かなかったから職員に故意、重過失がなかったとのことだが、それぞれの不備の要因に関して各職員に責任があった。複数の要因があったとしてもそれぞれの責任はしっかり問うべきである。

(5)関係職員の事情聴取等

 平成26年9月19日に、都市創造部の部長、部長代理、同部管理課の課長、課長代理、主査及び係員に対して事情聴取を行った。
 また、請求書及び証拠書類について調査し、関係職員に対し質疑を行った。

4 監査の結果

(1) 事実の確認

ア 本件賠償金の支払について

(ア) 本件マンション管理組合への賠償金の支払について

 市は、本件マンション管理組合理事長から平成25年12月10日付け「申し入れ書」を受け取った。これによると、①平成9年3月31日に既に「高槻市道殿町2号線」として供用開始されていた、②本件マンションの開発計画が持ち上がった時点で、既に河川占用料の支払義務が生じることはなかった、③市が府土木事務所に対し、市道供用開始に伴う河川占用許可申請を怠ったが故にこのような事態を招いていたとして、本件マンション管理組合が府に対して支払った平成21年度から同24年度の河川占用料4年度分(各年度25,960円)、計103,840円の返還を求めるものであった。市は、平成26年2月18日付けで同理事長と「示談書」を締結し、同月26日付け請求書により同年3月7日に賠償額103,840円を支払った。

(イ) 甲社への賠償金の支払について

 市は、甲社支店長から平成26年2月21日付け「申入書」を受け取った。これによると、①開発に伴う河川占用期間は平成19年12月1日から同22年3月31日までであった、②河川占用料納付の対象となった場所は、平成9年3月31日に既に「高槻市道殿町2号線」として供用開始されていた、③市が本件開発協議において当該地が市の道路区域ではないとの誤った指導を行ったとして、甲社が府に対して支払った河川占用料相当額45,740円の賠償を求めるものであった。市は、平成26年3月31日付けで同支店長と「示談書」を締結し、同年5月1日付け請求書により同月15日に賠償額45,740円を支払った。

(ウ) 乙社への賠償金の支払について

 市は、乙社店長から平成26年2月26日付「申し入れ書」を受け取った。これによると、①建築に伴う河川占用期間は平成20年2月1日から同21年3月31日までであった、②河川占用料納付の対象となった場所は、平成9年3月31日に既に「高槻市道殿町2号線」として供用開始されていた、③市が開発業者に当該地が市の道路区域ではないと誤った指導を行ったとして、乙社が府に対して支払った河川占用料相当額46,610円の賠償を求めるものであった。市は、平成26年3月31日付けで同支店長と「示談書」を締結し、同年5月1日付け請求書により同月15日に賠償額46,610円を支払った。

イ 本件誤指導をした職員等について

 本件誤指導をしたのは、平成19年当時の都市産業部開発指導室指導課建築指導チームの職員である。また、甲社及び乙社(以下「本件開発事業者」という。)が本件開発協議を行うに当たり、本件マンション建設地と本件市道の接道状況の確認を行った際、接道していない旨の回答を行ったのは、当時の建設部道路管理室管理課の職員である。

ウ GISシステムに平成9年変更の図面情報が掲載されなかったことについて

GISシステムは、道路に関する情報を統一的に位置情報に関連付けて管理することにより事務改善を図る目的で導入された。平成17年度からその一部を稼動させ、その後、順次、システムを拡充しつつ運用が行われてきた。
 平成19年12月頃、本件開発協議に当たり、本件開発事業者が本件マンション建設予定地と本件市道との接道状況について管理課に確認を行った。
 その際、道路の状況の確認等の事務処理については、GISシステムにより行うことが通例であったことから、当該事務処理に当たった職員が同システムにより当該道路区域の確認を行ったものである。しかし、当時、本件市道に関しては、平成7年変更の図面情報は同システムに掲載されていたものの、平成9年変更の図面情報は掲載されていなかった。このことは、平成25年1月に本件マンション管理組合が、本件マンション敷地と本件市道の接道状況を確認するため管理課を訪れたことが契機となって、その後の同課の調査により明らかになったものである。
 平成9年変更の図面情報がGISシステムに掲載されていなかった原因について、管理課によれば、道路図面等の情報入力を行っていた委託業者の確認漏れや委託業者に渡した紙図面が欠けていた可能性、情報入力後の当該情報の誤消去などが考えられるとしているが、その原因の特定には至っていない。

エ 河川占用許可申請がなされなかったことについて

 平成元年から、事業主体を府及び市とする「あくた川21事業」が実施された。平成7年3月31日に同事業による整備箇所である本件市道の道路区域が変更された(高槻市告示第108号)。また、同9年3月31日に同事業による整備箇所である本件市道の道路区域が変更された(高槻市告示第102号)。平成9年の道路区域の変更に当たっては、河川敷の占用について市が府に河川占用許可申請をすべきところ当該申請が行われなかった。その理由について、管理課によると、道路の拡張工事自体は河川管理者(府)が直接実施していたことから、府内部で河川占用許可申請手続が完了しており、改めて市が手続を行う必要はないと考えたと思われるとしている。

(2) 判断

 請求の要旨及び理由、請求人の陳述、関係職員の陳述及び事情聴取並びに関係書類から判断した結果は、次のとおりである。
 本件賠償金は、国家賠償法第1条第1項に基づき支払ったものである。同項は、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と規定している。ここでいう「故意とは、公務員が公権力の行使を内容とする職務を行うに当たり、その行為又は結果の発生が違法であることを認識しながらこれを行う心裡状態をいい、過失とは、違法な行為とその結果の発生について通常要求される注意を払わないことの心裡状態をいう」(「判例よりみた国・地方損害賠償責任」薄津芳著、昭和50年1月20日発行519頁)とされている。
 また、同条第2項は、「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」と規定し、「重大な過失」とは、「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すもの」(昭和32年7月9日最高裁判決)とされている。
 そこで、本件誤指導の原因となった事務処理について、国家賠償法第1条第2項の求償権の行使の要件となる故意又は重大な過失があったか否かについて判断する。

ア 本件誤指導を行ったとされる職員について

 本件誤指導に至った経過は、上記4(1)イ及びウのとおりである。当時の建築指導チームの職員は、本件開発協議において、当時の管理課からの本件マンション建設地が本件市道に接道していない旨の誤った情報に基づき、接道要件を満たすため府から河川占用許可を得るよう本件開発事業者へ指導したものである。この事務処理は、開発協議において、通常行われているものであり、当該事務処理に当たった職員は、管理課からの当該情報に基づき当該指導を行ったものであり、当該職員が、当該情報の誤りに気付かなかったことに過失は認められず、また、当該情報の誤りを知った上で故意に当該指導を行ったとする証拠もない。

イ 本件市道の接道確認を行った職員について

 平成19年当時、管理課における市道への接道状況確認の事務処理は、GISシステムにより行うこととされており、当該事務処理に当たった職員が平成9年変更の図面情報の存在に気付かず、同システムに掲載されていた平成7年変更の図面情報を最新のものであると信じ、本件マンション建設地が本件市道に接道していない旨を本件開発事業者に回答したことについては、やむを得ないものであり、当該職員に過失は認められず、また、平成9年変更の図面の存在を知りながら故意に当該回答を行ったとする証拠もない。このことは、上記4(1)ウのとおり、同システムに平成9年変更の図面情報が掲載されていなかったことが判明したのが、平成25年1月に本件マンション管理組合が本件マンション敷地と本件市道との接道状況を確認するために管理課を訪れたことが契機となったことからも推認される。

ウ GISシステムに平成9年変更の図面情報が掲載されなかったことについて

 GISシステムは、道路関連情報を統一的にGISの位置情報に関連付けて管理することにより道路に関する事務改善を図るため導入された。そして、日常の事務処理における市道の図面の確認はGISシステムにより行われていたことから、当時の市の担当者が平成9年変更の図面情報が同システムへ掲載されていないことに気付かず、本件開発事業者の接道確認に対し誤った回答を行い、ひいては本件誤指導につながったものである。
 本来、市は正確な情報に基づき本件開発事業者を指導すべき責務がある。
 そして、GISシステムには常に最新の正確な道路図面等の情報が掲載されていなければならないところ、平成9年変更の図面情報が漏れていたというのであるから、これが原因で市は、本件開発事業者に誤った指導を行い損害を発生させた過失責任がある。
 しかしながら、上記4(1)ウのとおり、当該図面情報が同システムへ掲載されなかった原因を特定できないことから、同システムへの情報入力処理のどの過程で当該事務処理に関わった職員のいかなる行為により当該図面情報の入力漏れが生じたのかが明らかでないことから、市は、当該職員を特定し、その職員の当該入力漏れを生じさせたいかなる行為に故意又は過失があったと判断することは困難である。
 そうすると、仮に市が職員に本件賠償金額を求償するためには、市は、当該職員を特定し、故意又はその過失の態様を明らかにし、その過失が重大な過失であることを立証しなければならないところ、そのいずれもが立証できる状況ではない以上、市が求償権を行使し得ないことは明らかである。

エ 河川占用許可申請がされなかったことについて

 平成9年変更の際、市が府に対し当該道路の変更部分に係る河川占用許可申請がされなかったことについては、当該変更部分の河川占用許可を得ていない暇庇があるものの、当該変更部分は、既に平成9年3月31日に本件市道の道路区域として変更されていた。本件賠償金の支払は、上記4(2)ウのとおり、本件開発協議の際、当時最新のデータである平成9年変更の図面情報がGISシステムに掲載されていなかったことから、当時の市の担当者が本件開発事業者の接道確認に対し誤った回答を行い、ひいては本件誤指導につながったものであり、当該河川占用許可申請の有無にかかわらず、損害賠償責任は生じたのであるから、当該申請がなされなかったことと本件賠償金の支払とは直接的な関係があるとは言えない。

(3) 結論

 以上、本件誤指導は、GISシステムに平成9年変更の図面情報が掲載されなかったことが原因で生じたものであるが、市は、その原因を特定することができず、それ故、その原因を生じさせた職員を特定し、その職員の故意又は過失あるいは重大な過失の有無を判断できない状況にあることから、市長に求償権を行使することを求める請求人の主張は理由がなく、当該措置の必要は認められない。

(4) 要望

 本件賠償金の支払は、上記過失が原因となったことから、適正な事務執行に努められるよう市長に要望する。