高槻ご意見番

「高槻ご意見番」の代表で、高槻市議会議員の北岡たかひろのブログです。

【今城塚随意契約訴訟】最高裁へ上告受理申立て

最高裁判所で逆転勝訴できる可能性は1%くらいらしいのですが、今城塚古墳の随意契約の問題については、全国的に悪影響を及ぼす可能性もあり、一縷の望みをかけて上告しました。

この問題の本質は、予算と国からの補助金の使い切り。予算等を使い切るために、予算残額から随意契約の金額を決定し、その結果、割高な随意契約が結ばれたのです。おまけにその随意契約には、とっくに完成済みの工事等も含まれており、契約書には虚偽の工期が記載されていました。

他の自治体でも、補助金や予算を使い切る体質があるようなのですが、そのために割高な随意契約をこっそりと締結することは許されないはずです。

こんなことを裁判所が容認すれば、多くの自治体が「最高裁のお墨付きを得た」と真似をする可能性があります。ぜひ最高裁判所には、賢明な判断をしていただきたいと、切に願っております。

平成24年(行)第36号 損害賠償等上告受理事件
上告受理申立人(控訴人) 北岡 隆浩
相手方(被控訴人) 高槻市

上告受理申立理由書

平成24年7月17日
最高裁判所 御中

第1 はじめに

1 本件は,「真の継体天皇陵」といわれる今城塚古墳の第4次整備工事において,高槻市が請負工事契約を,当初契約(予定価格の約78.8%で落札),変更契約(当初契約と同率),追加契約(随意契約で予定価格の約87.5%)と分断し,当初予定されていた予算額(約3億1000万円)を使い切った事案である。この事案の問題点は,テレビ報道でも指摘された(甲13)。
 上記各契約はいずれも同一業者との間で締結されているにもかかわらず,随意契約で締結された追加契約は,当初契約及び変更契約と比較して約10%も割高となっているのである。
 そこで,申立人は,本件訴訟を通して,本件随意契約の違法性及び高槻市が恣意的に契約を分断した違法性を問うた。
 しかし,第一審判決,第二審判決ともに行政の裁量の範囲の逸脱又はその濫用はないと判断した。

2 ところが,この結論の理由づけは証拠に基づいた具体的な事実認定によるものではない。そこでは,抽象的に同一業者が引き続き工事を行うほうが経費の削減ができて,業者間の軋轢等が生じず,適切であるという希望的観測に基づく事実認定である(このようなことが通じるのであれば,本件は7カ年の整備工事すべてを同一業者が行えばよいという結論になるが,これが論外であることは明らかである)。

3 また,立証責任の点においても,随意契約があくまで例外的なものであり,一般入札が原則であることを故意に無視した認定がなされている。
 本件事実認定(同一の業者を使用することによりどの程度経費が節減できたのか,期間はどの程度短くなったのか,予算外の工事がおこなわれていないかどうか等々)は,根拠が明らかになっていないにもかかわらずされ,本件請求が棄却されてしまったのである(特に,原審では,申立人が事実に誤認があるとか,高槻市に費用が減縮できた程度を具体的に明らかにされたいと再三主張していたにもかかわらず,そのようなことを相手方に釈明させるどころか,第1回目の口頭弁論期日から早期の終結を示唆していた)。

4 以上のとおり本件は,具体的な事実認定が不十分な状況でなされた判断であり,適切な事実認定を行うためには,原判決を破棄して差し戻し,再度審理をすべきである。

第2 具体的な事実認定がないままでの判断であること

1 予算の使い切りが認定できる場合は,より慎重に工事内容の検証が必要となるはず

(1) 一審及び原判決は「・・・高槻市としては,できるだけ補助金の全額を,文化庁に返還することなく使い切ることができるような運用を行ってきたことが認められる。そして,第4次工事においては・・・補助金の額を前提として決定された第4次整備工事の総予算額3億1000万円をほぼ全額使い切る形となっていることからすれば,本件追加契約においても,本件各契約全体で予算を使い切ることができるように調整して契約が締結されたことがうかがわれる。」と認定している(一審判決40頁)。
 この点,契約締結当時,職員も「もうはっきり言いまして,金額を逆算してここへ,放り込んでますんでね。」と,予算残額から逆算して追加契約(随意契約)の金額を決定した旨述べている(甲28)。

(2) 一審及び原審でこのような予算の使い切りの事実認定がされているにもかかわらず,なぜ,本件追加工事が,「これまでの積み残し工事や今後も必要な工事を繰り上げて行ったことが認められる」と安易に認定したのか理解に苦しむ。
 予算を使い切ることを目論んでいた高槻市が,入札を実施しないばかりか,2以上の者から見積書を徴しもせず(高槻市財務規則(甲6)111条に規定),契約さえも締結しないで,業者に先行工事をはじめ諸々の工事を行わせ,工事開始から約4か月以上経過してから金額のみ記載され工事内訳のない見積書(甲7-2)を徴して,やっと先行工事を含む工事につき本件追加契約を随意契約で締結したことからすれば(本件追加契約には工期を契約締結日からとする虚偽の工期が記載された),高槻市は,当初から,業者に対して,予算額のほぼ全額を支払うことを意図していたと見ることができるのである。
 そうであれば,追加契約(随意契約)の契約金額は,単に予算の残額から逆算したものになり,契約金額をできるだけ低く抑える努力はされず,割高なものになるのは必然である。
 したがって,本件のように予算の使い切りが認定できた場合には,真に必要な工事なのか,その工事費用が適切なのかについて,より慎重に吟味・検証しなければ,市民の税金の違法かつ無駄な支出を許すことになる。
 しかし,後述するように本件では慎重な検証はなされていない。その証拠に,本件の変更契約や追加契約(随意契約)によって,どの程度経費が節減できたのか,工事が早まったのか等の認定がないことからも明らかである。

(3) そもそも,補助金や予算を使い切るという姿勢は,できるだけ経費を削減しようとする入札制度の趣旨を蔑ろにするものである。
 それ故,かかる認定ができる場合は,予算を使い切りのために行われた工事内容が本当に必要なものであったのか,工事費用は適切であったのかを疑問の目で見なければならないはずである。

2 具体的な根拠・立証があっての結論ではないこと

(1) ところが,一審及び原判決は,「本件追加契約の対象工事が,予算の使い切りのために行われた不必要な工事であり,又は請負報酬額が不当に高額であると認めることはできない」とする(一審判決41頁)理由として,「本件追加契約の対象工事についても,証人によれば,これまでの積み残し工事や今後必要な工事を繰り上げて行ったことが認められ,これを覆す証拠はない」ということを挙げている(一審判決40頁)。
 つまり,本件事業は,7か年計画であるところ,予算の使い切りがあったとしても高槻市が行った工事は,今後も必要となる工事を繰り上げて行ったものであるから,不必要な工事内容ではないという論理である。
 しかし,そうであれば本件は7か年計画だったものが,本件追加契約の工事によりどの程度短縮されたのかを明らかにしなければならないはずである。
 ところが,一審及び原審はこれについて何らの検証や証拠もなく,ただ証人の言葉をそのまま信じて「今後も必要となる工事であった」と認定したにすぎない。

(2) 実際は,今城塚古墳整備工事は,本件追加契約により工事の先取りがされたはずであるにもかかわらず,当初の計画通り,7か年かかった。現在,既に,今城塚古墳整備工事は終了しているが,これが6年や5年に短縮されることはなかったのである。

3 立証責任は高槻市にあるはずである

 加えて,一審及び原判決は,繰り上げて工事を行ったことが認められ「これを覆す証拠がない」というが,これは随意契約があくまで例外的な契約形態であることを忘れた,立証責任を誤った考えである。
 本判決の論理では,あたかも申立人が繰り上げ工事を行っていないことを具体的に立証するべきだと言っているのと同様である。
 しかし,入札が原則であり随意契約が例外である地方自治法及び施行令等の趣旨に鑑みれば,繰り上げ工事を行い事業計画が短縮されたことを,高槻市が具体的に立証しなければならないのは当然のことである。
 それが立証できないのであれば,割高な契約や無駄な工事をして業者の利便のみを図ったと認定すべきである。

4 嶋上郡衙跡が補助金の範囲内でおこなわれたどうか

(1) 一審判決は「予算の使い切りのために不必要な工事が行われたと認めることはできない。」とするが(一審判決40頁20乃至21行目),補助金を目的外に使用して嶋上郡衙跡の工事が行われたのであれば,それは「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(以下「適正化法」という。)に反することにもなり,問題なのであるから,嶋上郡衙跡の工事内容がどのようなものであったのかは本件の事実の認定としては重要である。
 にもかかわらず,原判決は,「証拠(甲30)によれば,申立人が問題とする残土の処分は,残土の一部を嶋上郡衙跡に運搬した上,積み上げた土をそのまま緩い状態で放置すると崩れたり泥水が流出したりするため,転圧して整形したというものであるから,通常の残土処分工事の範囲を逸脱しておらず,嶋上郡衙跡の土木工事を対象としてものとは認められない」と甲30だけで,結論を出している。(原判決4頁)。
(2) 住民監査の「関係職員事情聴取」(甲第29号証)において,証人として出廷し,本件工事内容について一番事情を理解している職員は,「文化財課におきましては,嶋上郡衙跡・・・も買収させていただいているわけでありますが,買収地が,ある程度きれいな形,一定の広さにまとまったら,仮設の広場として整備していきたいという考え方は,以前からございまして・・・残土処分で,その土台部分が,きれいになれば・・・最終的に仮設広場という形にもっていけるだろうと,まあそういうふうなことで考えていたところ,そこへ今城塚の残土の話がございまして,じゃあ,そこで,処分すれば一石二鳥だというようなことでお願いしたところでございます。」と述べている(甲29の13頁17乃至30行目)にもかかわらず,である。

5 割高な契約になったこと

(1) 一審及び原判決は,本件では,一般競争入札に付することが不利であったとするが,何ら具体的な根拠に基づかないものである。
 これは,同一業者が引き続き工事をしたほうが経費の点で有利であるという一般論から導いたものにすぎず,実際は,むしろ本件追加契約が割高な率で締結されたため,高槻市に損害が生じた。
 一審及び原判決は,本件変更契約の対象工事と,本件当初契約の工事に重なり合いがあったというが,追加の補助金がなければ,第5次において本件変更契約の対象工事がされていたのであり,その際には入札が実施されていたことに鑑みれば,一般競争入札に付することが不利であったということはできないはずである。
 本書面別紙で第1次~7次の今城塚整備工事の入札価格及び落札率を添付するが,それを見ても,実際,本件同規模の整備工事(第3次整備工事,第5次整備工事,第6次整備工事,第7次整備工事)では,全て80%近くの落札率であったことからも明らかである。
 本件変更契約と本件追加契約は,1日違いで締結されたにもかかわらず,本件変更契約は約78.8%である一方,本件追加契約が約87.5%であることには,何の合理的な理由はない。物価の急激な変動が起きたわけでもないのに,同種の工事にこれだけの価格差が生じさせることは,ありえない。

(2) なお,一審及び原審が,第2次工事の落札率が約96%であったというが,第2次工事の予定価格は7千万円と比較的少額であり,また工事内容も違うのであるから,単純には比較できない(第2次工事の応札率は96.43%~98.57%と高止まりしている)。
 第4次工事と比較すべきは,積み残しのあった第3次工事と,本件先行工事が回されるとされていた第5次工事の落札率(いずれも80%)であることは明白である。
 とすれば,本件追加契約が,割高であることは明らかである。

第3 総括

1 以上からもわかるように一審及び原審は,前提となる事実を,高槻市の言われるまま検証することなく,それを根拠に相手方の行為に違法性がないと判断しているので,全く失当である。

2 変更工事及び追加工事がほぼ1日違いで行われている本件では,変更工事及び追加工事だけでも,1億3260万円であり,その規模からすれば,今城塚第1次整備工事(予定価格5138万円・落札価格4110万円)や第2次整備工事(予定価格7000万円・落札価格6750万円)よりも大規模な工事となるのであるから,入札に付さなければならなかったのである。
 入札に付していたならば,業者には,第4次整備工事の承継があり,工事に利用できるものがあるため,他の業者よりも安い落札率で応じることが可能となったことが予測される。にもかかわらず,むしろ割高な予定価格の87.5%で契約を認めることになったこと自体,一般の社会常識に反することは明らかである。
 87.5%になった理由は予算額から逆算した結果に過ぎないのであり,そこには「何が必要な工事か」,「当該工事を行うことによりどれだけ期間が短借できたのか」,「随意契約と入札ではどの程度費用が変わるのか」等々について具体的な検討は行われておらず,契約が締結され工事が行われた結果,市民の納めた血税が無駄遣いされたのである。

3 本件では随意契約をするにあたり,複数の業者か見積もりをとならなかったという手続き違反や,先行工事についての施工手順に不備がある(このことは第一審判決も「公共事業に係る工事の施工手順として不適切な部分があることは否定できない」と認めているところである)ことが明らかであるが,これらの各問題も些細なものとして片づけるのではなく,本件全体の中で,不正な目的・動機の証左として読み取るべきものなのである。
 この点を見過ごして本件追加契約の違法性を認めなかった一審・原判決は速やかに取り消されなければならない。

4 他の多くの自治体においても補助金や予算を使い切る体質があるが(甲14乃至18参照),使い切りのために,割高な随意契約を締結することは許されないはずである。
 これを裁判所が許容することになれば,多くの自治体が,本件と同様の手法で補助金や予算を使い切ることが予想され,全国的に悪影響が及ぶと考えられる。
 こうしたことを防ぐためにも,最高裁判所におかれては,賢明な判断を切に望むものである。
以上